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 つれづれ花61 命をいただく 食育  2015年6月3日
あかね雲は黒毛和牛の繁殖を生業としています 母牛から子牛を生ませて9ヶ月から10ヶ月育てて繁殖の母牛の素牛にしたり 和牛肉の素牛になったりします

命を預かる重い仕事と思っています 辛いことも多くあります

6月2日は栃木県に1カ所の矢板家畜市場で毎月の子牛の市場がありました 県内に1カ所の市場は全国的に珍しく 通常は一つの県に数カ所の市場があり その市場により牛の特性も違います

和牛はその生産県において特徴があり その特徴は重要です 系統的には肉質の但馬牛 体積系の鳥取・島根・岡山牛 現在人気の宮崎・鹿児島牛 中部では岐阜県 東北では山形・岩手・宮城県 などなど 栃木県は種牛を持たない県で家畜改良事業団の種を主に使っていますが 実際には全国の名牛の種が流通しています その方が市場価格が高いという理由からです

雌の素牛導入の歴史は昭和40年代50年代は広島県庄原市場や三次市場から導入が盛んでした 体積・肉質を兼ね備えていました 名牛の種牛の名前は「第9稲実」「乙社6」「友田8」 もうずいぶん古い種牛ですが懐かしい名前です 夫も実際に買い付けに行ったことがあり 当時導入した子牛の生産者の方との交流は現在も続いていて牛が取り持つご縁です

その後雌牛の導入は島根県の「糸桜」系 その後鹿児島県宮崎県に移りました 現在は栃木県矢板市場の雌子牛の評価が高く全国各地から買い付けに来ていただくようになりました

松坂牛 神戸牛 米沢牛 とちぎ和牛 などブランド名は肥育されて肉になった状態の産地です

和牛繁殖は 雌の素牛を生後13ヶ月育て 獣医師や授精師さんが種付けをし受精した卵が10ヶ月で子牛として生まれます 生まれた子牛を約10ヶ月育てて子牛市場に運搬してセリにかかります

和牛は高評価の牛肉で 世界で今一番の贅沢な食材と言われています その素牛になる雄の種(凍結精液)の選定が肉質に大きな影響があります 値段も一本数千円から数十万円まで価格の差はとても大きいです 血統が肉質に直接関係するからです

近年はその有名人気雌雄牛の子孫を有効に繁殖するための受精卵も盛んです 一本数十万円の精液で優良雌牛の卵に受精させて一度に数個から数十個の受精卵が採取でき 雌牛に受胎させると同じ優秀な血統の系統の子牛が同時に多く生ませられるからです

子牛が生まれる予定日が近づくと産室をきれいに整えて分娩に備えます 分娩は予定日の1週間前から予定日を20日ぐらい過ぎることもありますので予定日は期間が長くていつ生まれるかはまるで分らないのです その間夜中には必ず様子を観に行き産気があるかないかを観察します 春夏秋の夜ならいいですが真冬の吹雪の夜は外に出るのは嫌ですが もし観に行かなくて事故があって後悔するより観に行きます

分娩は母牛は初産でも自力で出産できる本能を持っています なので分娩が始まっても手を出さないで見守りをします 時により逆子だったり 子牛が大きすぎて難産だったりもありますので観察は怠らないようにしないとなりません 人間が引っ張る手伝いをしたり 獣医さんを頼んだりすることもあります

無事生まれて1か月は産室で親牛と子牛だけで過ごします 子牛が群れ飼いに付いていけるように力がついてから他の子牛や親牛と同じ牛舎に移します 10ヶ月育てる間 風邪や下痢などで成長が妨げられないように飼育します 子牛に手をかけ 懐くように可愛がりわが子の子育ての時と同じような気持ちで育てます 

穏やかに懐いている子牛たち  どこかの猫もお友達

親牛や子牛の栄養管理も大切です たっぷりの良質な乾牧草の給餌は大切で そのための牧草収穫作業は大切な仕事です

親しくお付き合いさせていただいているフランス人の方がいます 先日 牧草の収穫作業を観ていて 5月初めの田植えの作業も観ていて 日本の農業機械の便利さと仕組みに感心されていました

そして 疑問を質問されました フランスでは牧草地に牛が放されて生の青い牧草を食べている光景が普通なのに日本には牛が牧草地に遊んで草を食べている風景を全く観られないのは何故?と

こんなに広い牧草地が有ったらたくさんの牛が食べられるのに どうして青い草を乾燥させてロールにしているのか不思議 だと仰っていました

一度に多くの草を収穫しておくといつでも食べさせられて冬でも同じ状態で草を給餌できること 安定供給と省力化だと説明しました それでも青い草を青い新鮮なままで牛に食べさせたいのは同じ気持ちなのですが・・・とお話ししました

この地域は和牛ですが那須町の北部では乳牛の酪農が盛んで本州一の牛乳の産地で 和牛は家族的な飼い方ですが乳牛は牛乳の生産工場のよう 近代的な設備をした牛舎で衛生管理は整っていますが コンピューターで個体管理をされ100頭単位で数100頭の飼育頭数はふつう規模 乳量第一で数年で牛の更新がされるようです 生きている動物という観念ではなく牛乳を生産する企業の考え方の合理的経営が求められるようです とお話ししました

黒毛和牛は高級食材としてグルメの番組や雑誌でもてはやされ 名のあるレストランやホテルや専門店では牛肉の味をメインに売り出しているところが多いです 当たり前に食べる牛肉 豚も 鶏も 魚もそうですが 命があり生きていたものであることを忘れてはならないと思います

人の命を繋ぐために他の生き物の命をいただいていることを忘れてはいけないです わたしも牛肉は大好きです 生で刺身でもいただきます その時はいつも「ありがとう」と感謝をしています それを忘れては牛を飼うわたしとしては人間として失格だと思うからです

美味しくいただく そして元気をいただく それは命を提供してくれた動物や魚たちの命が報われると思うからです 多量を暴食するのではなく生きるのに必要な分をいただくことです

食べることばかりを 贅沢ばかりを賛美して 命をいただいていること 受難もある生きている牛であること その現実を知らずに牛肉を食材としてしか考えられないことにいつも疑問を持っています

子供たちに 青年たちに 牛の命を教えること 感謝すること 

そういう食育は基本のことだと思っています

以前 和牛飼育農家の女性研修で東京芝浦の食肉センターを視察したことがありました わたしたち繁殖農家が育てた子牛を 肥育農家が市場で買い取り約二年間育てた後堵殺されます そして皮を剥がれ 内臓と頭を除かれ 枝肉として吊るされ並べられているところです 血が流れ 独特の匂いもします 職業人としてはそれは自分の仕事の最終段階を観る大切な場所です

そのことは頭では解っています けれどわたしはどうしてもその場所に足を踏み入れることはできませんでした 意気地のないことです でも それができませんでした

今 和牛子牛市場はこれまでにない異常な高値で取引されています 需要と供給の関係で需要に対する供給量の不足が理由 どんなに高値で子牛を買っても肥育してその肉が高値で取引されることがわかっているので高値でも買うこともできます それは和牛肉の欧米での評価の高さと需要の高さがあるからです

大切に育ててた子牛を市場で手放す時 わたしを信頼して懐いていた子牛を裏切るような切なさでいつも泣いてしまいます 何十年経験していてもだめですね 夫には「牛は経済動物なのだから」と言われ続けていますがそう簡単には割り切れない気持ちが残ります

そしてもう一つ この仕事を続けて行ける活力の素 近くに同じ年代の同じ目標の仲間がいること 切磋琢磨して仕事に励めること 同じように牛の世話が好きで 身体を動かして働くことが好きで 自然の中で生きることが好きな仲間がいることです 女性だけで時々食事会をしてコミュニケーションを深め 子牛の競り市の夜は地区内のその日の出品者が夫婦同伴で「反省会」という名の食事会を開催します 3時間にぎやかに楽しく牛の話を中心に交流します

子牛を競り市に送り出す気持ちを表すような曲 「ドナ ドナ ドナ」 市場へ子牛を出す時の悲しい時ずっと口ずさんで来ました いつごろ覚えたのか日本語で 訳詩は安井かずみさん

ある晴れた 昼下がり 市場に続く道 荷馬車がゴトゴト 子牛を乗せてゆく                       かわいい子牛 売られてゆくよ 哀しそうな瞳で観ているよ                                 ドナドナドナ ドナ 子牛を乗せて ドナドナドナ 荷馬車が揺れる

青い空 そよぐ風 つばめが飛び交う 子牛よそれ見て おまえは何想う                           もしも翼があったならば 楽しい牧場(まきば)に 帰れるものを                                    ドナドナドナ 子牛を乗せて ドナドナドナ 荷馬車が揺れる

原曲はジョン・バエズ バエズの歌

この曲をある方もずっと長い間愛唱していて原曲のジョン・バエズの歌詞で歌います

ギターの弾き語りでも歌うそうでそれを聴かせていただいたらこの情感がどんなに心に響いてくるだろうと是非いつか聴かせていただきたいと願っています

子牛への想いと牛を飼う生業のことをいつかは書きたいと想い続けていました

今月2日の市場へは行けませんでした 久しぶりに娘から手伝い要請があり孫の世話に行く日と重なりました 宇都宮の住宅街には夾竹桃が植えられて赤ピンクの八重の花が咲いていました 夾竹桃は暑い夏の盛りに咲く花のイメージ なのに北関東の5月末に咲いている 今年は5月は毎日のように夏日が続いていて植物は木の花も野草も気温には敏感ですね

  

そして2日は満月で十六夜の月 昼は晴れていて午後から曇り 夕方は暗くて今宵の月は観られるかどうか気になりながら夜の反省会会場へと帰路の車を走らせていました 7時過ぎ 雲間からぼんやりの紅い月がほんの数分見られました こんなことも幸運に思える小さな幸せ・・・♪